触 覚

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「夕暮れのMatera」

 洞窟都市Materaは、タイムトラベルで迷い込んだような不思議な感覚にさせられる所だった。
渓谷の斜面を掘った住居群が複雑に重なり合い、下の家の屋根が上の家の小道になり、そこの屋根がまた上の家の...と、まるでフラクタル図形のように繰り返されている。圧巻だった。昼間の強い日差しの中を、この迷宮を歩いてみた。その乾燥しきった埃っぽい空気と暑さにクラクラしてきた頃、同じ様に岩を掘って造られた教会があり中に入る。すると、穴の中は驚くほどヒンヤリと涼しいのである。なるほどなぁ、これならクーラーも要らないし快適ぢゃないか。

 この都市には、2000年の歴史がある。人々は脈々とここで暮らしを営んできたわけだ。それなのに戦後、南イタリアの恥部と貧しさの代名詞のように言われ、人々はここを強制退去させられたらしい。廃虚と化した住居は痛々しかった。が、1993年に世界遺産に登録され、市当局はここに人々を呼び戻す政策を進めているという。その政策のおかげなのか、洞窟住居をそのまま生かした“サッシホテル”を、散策中に発見。二泊した。そこは、本当に単なる穴ぐらなのに、天井は高く、なんとも落ち着く空間なのだった。カメラを構えて部屋のドン引きを撮ろうと壁際に寄りかかったら、Tシャツの中へジャリジャリッと砂が落ちてきた。壁を触るとポロポロと崩れ落ちた。柔らかいのである。これならサクサク穴が掘れるだろう。

 夕方、涼しくなった頃、部屋の前の小道に出てみたら、ピンクに染まった住居群にツバメ達が舞い飛んでいた。昼間とは全く違った表情だった。そのままボーッとそこに腰掛けて、近代、中世、古代ギリシャ時代、そして新石器時代へと、時間を遡って旅してみた。結局、人の暮らしの喜怒哀楽は変わらない。シンプルな暮らしが一番だ。
夕暮れのMateraで、柔らかな岩肌をお尻の下に感じながらそんなことを考えていた。

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●洞窟住居を改装したサッシホテル
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●つまり世界遺産に泊まってるのか?
matera_04●夕暮れのマテラで、時を遡って旅してみる。

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