
このガムランの存在を知ったのは春秋社出版の「神々の島バリ」第七章・皆川厚一氏の“ガムランの体系”を読んだ時だ。皆川氏の本文を引用させてもらうと…。
<ブンブンbumbung類>
ブンブンとは、竹を筒のまま片方の節を残した状態で切った閉管で、節の位置で空気柱の長さを調節する。これを縦に持って底を固いものにうちつけたり、閉口部に口につけて吹いて音を出す。前者の例ではブンブン・ゴビョグという、稲の脱穀作業から発達したといわれる芸能が残っている。これは複数の女性が長さの異なる竹筒(ブンブン)を一人一本ずつ手に持ち、それぞれ異なったリズムで、細長い臼のような固い素材の台座に撃ちつけるものである。
また金属の鍵盤楽器の共鳴筒として用いられる竹筒も、やはりブンブンと呼ばれる。
この解説を読んだ時、JEGOGの元祖説にはいろいろあるが、ひょっとするとこのガムラン・ブンブン・ゴビョグなるものがJEGOGの元祖ではないかと、私は密かに想像し新たな発見に胸が踊り、是非一度聴いてみたいという衝動に駆られた。思い立ったら実行である。竹に関することなら、まず、(財)スアール・アグンのスウェントラ、和子夫妻に聞けと親の遺言でもあり(!?)さっそく連絡を取った。「ブンブン・ゴビョグを聴きたい」と私が唐突に言うと、和子さんは「ヌガラにあるよ。でも、演奏できる人はお婆ちゃんばかりだから、早く聴いておかないと今に無くなってしまうよ。」と言われ、さっそくチャーターすることをお願いした。
インドネシア語で竹のことをポホン・バンブー(Pohon Bambu)と言い、切り倒された竹を一般的に単にバンブーと呼び、筒状のものはブンブンと呼ばれている。
そして、いよいよヌガラへ。ガムラン・ブンブン・ゴビョグは、すでにスウェントラ氏宅の庭に準備されていた。われわれが到着してしばらくすると演奏が始まった。6人の女性が右手にブンブン・竹筒(太さは直径7cmほど、長さ60cmから80cmまでのまちまちの節の抜かれた筒)を一本ずつ持ち、幅20cm、長さ2m50cm、厚み3センチほどの木の板(工事現場で使われる足場板のようなもの)に降り落とし、カタカタカタと単調なリズムを叩きだした。
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六人の女性は、和子さんに言われたようにやはりお婆ちゃんたちだ。このお婆ちゃんたちにルジャンを踊ってもらったら、きっと雰囲気だろうなと思い、演奏のあとルジャンをリクエストして踊ってもらった。やはり、思った通りの優美で神秘的なルジャンを観ることができた。そんなお婆ちゃんたちが無表情でもくもくと竹を降りおろして叩く演奏であるが、そのタイミングが微妙にずらされ、リズミカルで楽しい音である。これが稲刈あとの脱穀作業から考え出されたとは…。
いやはや関心してしまう。叩き出される音はJEGOGの高音に似ていて、やはりルーツはこれかと一人納得。
『BALI THE IMAGINARY MUSEUM』1995年発行(The Photographs of Walter Spies snd Beryl de Zoete:Oxford University Press)の写真223、224、225(1938年撮影)は、どこの村での撮影か明記されていないが、そのガムラン・ブンブン・ゴビョグには、前面に彫刻と彩色の施された額縁状のついたてが取り付けられてあり、その前で6人の女性の踊り子が歓迎の踊りを踊る時のような衣装に、長いカインを足の間から引きずって踊っている姿が載っていた。スピースの説明では、踊り子は右手に扇を持ち、夢うつつの状態であったと書かれている。残念ながらヌガラで観たものは、踊りはなかった。ところで、ヌガラで演奏してくれたお婆ちゃんたちがいなくなったら、いったい誰がブンブン・ゴビョグを受け継いでいくのであろう。ほかの村にあるという話も聞かないし、また、ひとつバリの芸能が無くなってしまうのだろうか。和子さん、そこのところもよろしく!…と、期待する極通スタッフでした。
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