K・B、インドネシア語読みでカー・ベー。これはいったい何のことかといいますと、「Keluarga Berencana」(クルアルガ・ブルンチャナ)の略で、「家族計画」という意味です。「家族計画」といっても、“家族で旅行したりピクニックしたりする計画をたてること”ではありません。K・Bは、インドネシア政府が奨励している産児制限政策のことです。でもって、インドネシア一般市民の間では、もっぱらKB=イコール=避妊、もしくはそのための方法、ととらえられているようです。
インドネシアはついこの間、人口がついに2億人を突破しました。2億人を越えた最初の一人目の赤ちゃんは、ロンボクで生まれたそうです。政府に正式に出生登録しているだけでこの人口、ということは、きっと実際にはもう少し多いのではないでしょうか。そして、インドネシア全体の人口密度が高くなってきているのも問題になっている。特にジャワ島やバリ島などは、政府が「Transimmigrasi」(移民)を奨励しているほどです。実際、バリ島内の貧しい村々からスラウェシ島などに、新天地を求めて移民していくバリ人たちもいます。

■村を歩くとあちこちで見かける「BIDAN」の看板。
これは助産婦さん(昔の産婆さんですね)の意。
たいていKBも受付中。 |
さて、第二次世界大戦の戦中、戦後までに子供時代を過ごしたバリの人たちは、結婚して、た〜くさんの子供をつくりました。その頃、避妊に関する知識も、道具もなかったのはあたりまえ。インドネシアも独立したてのホヤホヤで、人口のことまでとても気にしていられなかったのでしょう。5人、6人の子供はざらで10人以上の子供を持つ母親もいました。そして、その子供たちが今では立派な大人になり、結婚する年令になりました。ところが現在、若い夫婦の間で5人、6人も子供をつくろうとするカップルはほとんどいなくなりました。そうです、例のK・Bで、「Dua Anak Cukup」(ドゥア・アナック・チュクップ=子供は二人で充分)という標語がつくられたのです。
若いカップルが子供をたくさんつくらないのは、K・Bのせいばかりではありません。子供用の服、おもちゃ、病気になった時の医療費、予防注射、そして幼稚園、小学校から高校、大学、専門学校までの学費、やがては結婚式。昔とは比べものにならないほど生活水準が急上昇している今、子供をひとり持つとたいへんな額のお金が必要になる時代になってしまいました。ちなみに、デンパサールの小児科に風邪で一度かかると診察代が15、000ルピア、鼻みず止めや、咳止め、解熱剤などフルコースの薬代が3〜4万ルピア。デパートでちょっとTシャツとズボン(1歳用)を買って3万ルピア、乗って遊べるプラスチックの車が3万ルピア。数回繰り返して受けなきゃいけない予防注射が1回2〜3万ルピア。日本ではいずれも無料で受けられるものが、こちらでは有料なのです。
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そのかわり、政府援助によるPuskesmas(保健所)での予防接種はいくぶん安くなります。また、これは裕福な家庭のご子息、ご令嬢が通う私立名門校の学費が月に3〜4万ルピア、コンピューターなどのハイクラスレベルの専門学校の学費が月約7万ルピア。ちょっと驚いてしまう額でしょ?逆に、ツーリスト産業もないような田舎の貧しい家庭では、両親の手伝いで田んぼや畑の仕事をして、収穫時期になると忙しくて学校に行けないような小学生もいたりするのです。全インドネシアで定められている公立学校の通学のための制服(小学校はえんじ色、中学校は紺色、高校はグレー)を一着揃えるのが精一杯で、靴が買えずゴムゾウリで通学する子供たちもまだ多勢いるそうです。
UBUD郊外、T村に住むA氏は今35歳で公務員。近くの村の学校の先生たちのお給料を計算したり管理したりする重要なお仕事をしています。今でこそ、月に30万ルピア近いお給料をもらい、サイドビジネスに養鶏場を持ち、2人の子供にも恵まれて、まずまず不自由のない生活をしているA氏にも、こんな苦労話があります。
小さい時にお父さんを亡くした彼は、小学校を卒業すると、まだ幼い弟や妹のためにデンパサールのチャイニーズの経営する商店に住み込みで働くようになりました。まる一日、使いっぱしりのような仕事をして、何ヵ月がたつと、やっと少しのお金がもらえ、それを実家の生活費のためにお母さんに渡し、更に働いて数か月。約1年ほどで彼は、やっと自分が中学校で勉強するための学費と通学のための服、そして、教科書を手に入れたのでした。
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学校の成績が優秀だった彼は、高校の学費は奨学金で補助され、人のつてもあって運良く公務員になれたのでした。そんな辛い経験をしている人ほど、自分の子供にはカワイイ服やいい学校を、と思うのは日本と同じかもしれません。
そんな理由で、「子供はたくさん産んだらたいへん、2人で充分」という気持ちもあるのでしょう。それでも、男子が家系を継いでいくここバリでは、3人姉妹のあとは何がなんでも男の子を、と、頑張って4人目をつくるカップルもいます。「ねえねえ、男の子をつくる方法ってさ、日本にも何かあるでしょ。教えてよ。えっ?バリでは?ウフフ、そうねえ、アノ時、男性側がSemangat(一生懸命)だと男の子、女が一生懸命だと女の子って言う人もいるけど・・・いやあねえ(笑)」なんて変な相談をしに来る若い奥様もいたりします。
運悪く(?)4人目も、またまた5人目も女の子だった場合、奥さんの年令や家の経済状態から、多くの場合あきらめますが、その場合はSentana(スンタノ=婿養子)をもらう、Nyentanin(ニェンタニン)という制度があります。その場合、ふつう長女がSentanaを探すのが習わしですが、「おねーちゃんが、ちゃっかり駈け落ち婚で嫁に行っちゃったので、私がスンタノ探さなきゃなんないのよう。今時スンタノになってくれる人ってあまりいないのよ、お金持ちで美人ならいいけどさ、私なんてどうしよう」なんていう、たいへんな立場になっているMちゃんみたいな女の子も最近は多いようです。
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さて、これからする話は日頃品行方正な「極通」からはちょっと横道にそれますが。
●ジャン・ジャ・ジャーン、
避妊の話です!!
K・Bは、インドネシア人にとって「避妊」を意味する言葉でもある、というのは先に書きましたね。今、バリの女性たちは、結婚して子供を産むとすぐその場で、産婦人科の先生、もしくは助産婦さんから、「ほんじゃあ、1ヵ月後にK・Bに来てね」と命令されます。産後1ヵ月目から避妊しなければいけないなんて、オサカンですこと、と感心してしまった「極通」スタッフ。ここで、どんな避妊方法が取られているのか、更に詳しく調べてみました。ちょっと専門用語が入りますが、わからない人は百科事典などで調べてください。
まず、普通分娩で子宮口の広さがそれなりに開いている人は、I・U・Dという器具を子宮に入れて受精卵の着床を防ぐ方法がとられます。(極通スタッフの身近なバリ人の間では、この器具のことをズバリ、カー・ベーと呼んでいる人が多い。)Puskesmasや村の助産婦さんで費用が約5万ルピア(7年間使えるそうです)。極通スタッフがずーっと以前に泊まったことのあるホームステイ・Pのお母さんは、こう言っては失礼かもしれませんが、超ド級肥満型のもうとっくに40を越えたオバハンでしたが、ちょうど家のオダランの時にそんな話になって、「ウチはね今でもカー・ベーしとるんやけど、最近ちょっと調子が悪うて、変な時に生理になるんよー」と言うのを聞いた時は、「・・・ふうん・・・」と、ちょっと絶句してしまったことがあります。笑い話ですが、それこそ10人も産んでしまったお母さんなどは、川で洗濯をしたあと、重いバケツを頭にのせた途端に、入れていたカー・ベーがずれて、それを知らずにまた妊娠してしまったなんていう話も聞いたことがあります。
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次は、ホルモンに作用する注射をすることによって、卵子をつくる機能を妨げる方法。これは帝王切開の分娩後など、子宮口が狭くてI・U・Dが子宮に入らない人向き。1回接種で5,000ルピア。1ヵ月ごとに接種するものと、3ヵ月ごとに接種するものとがあり、生理が不順になるのが玉に傷。今どきの若い経産婦に人気が高く、普通分娩をした人でも、この方法を希望する人がいるそうです。白い液体を細い注射器でプッ、って感じで全然痛くないのですが、しかし、一度生理がくると少量の出血が毎日毎日2ヵ月続くという人もいて、毎日のお供え物ができない嫁に、「あんた、嘘ついてんじゃないでしょうね。」と嫌味を言う姑もいるとかで、問題になっている注射でもあります。

■バリのあちこちで見かけるキャンペーンの石像。 |
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さて次は、経口避妊薬・ピル。これは「毎日1錠飲む」という方法がなかなか遂行できずに不人気。我々日本人は、ピルの1錠や2錠、水でゴクゴク簡単に飲み込めますが、バリの人々はこれが出来ず、どんな薬でもバナナと一緒に口に押し込んでイッキに飲み下す、という方法をとるためもあって、ピルは苦手とされているようです。それに、母乳が出なくなることもあるとかで、授乳中のお母さんには使えません。
最後にキワメツキ、コンドーム。未だに開発されていない、プリミティブの住む地域が残っているインドネシアですが、そんな医療器具や設備が整っていない地域に無料で配布されているコンドームです。3個入り、お手軽パック500ルピアのインドネシア製コンちゃんのパッケージには、「2人で充分」という意味のVサインの手が描かれていたりして大笑い。「シルクのように滑らかで、自然な使い心地」なんていう、コピーで売られていたりします。
最近は、街のスーパーや薬局で、イギリスDurex社の高級品を売り出すようになり(「へーえ、詳しいなぁ」と感心しないでね。このためにあえて調べたんだから)、12ヶ入り8,500ルピア。そもそも、バリの男性たちはこの方法にあまり馴染みがなく、使ってみたものの、付け方が悪くて破れた、とかタイミングが悪かった、とかの失敗談をよく(でもないか)聞きます。だから、ほかの方法に比べて人気はグ〜ンと落ちます。よくある話ですが、イリアン・ジャヤの方では、子供たちが水を入れてオモチャとして楽しんでいるというのも聞いたことがあります。
さて、UBUD近郊のL村のあるバンジャールに行くと、バンジャールの地図に細かく1戸1世帯まで名前が書き込まれているパネルが壁に掲示してあります。 |
そして、なんとそれには1世帯ごとに、名前の下に何のK・Bを使っているかが書き込まれているのであります。まあ、「このバンジャールは、みんなでK・Bをちゃんとして、政府の方針どうり活動しています」みたいな意味あいなのでしょう。それにしても、「あっ、隣のWさんは注射なのね」とか、「おっ、向かいのNさんはコンドームかえ」とか言われるのも、とても恥ずかしいと思うのですが、当の住人たちはいったいどうなんでしょうね。
それにしても、ここバリでは村や家々のプラ、そして数々の儀礼などちゃんと昔どうりに守って受け継いでいくには、1戸あたりに相当の人手が必要です。それが、K・B政策がこんなに普及してしまった今、果たして、「2人で充分」なのでしょうか。その2人が二人ともヌサドゥアのホテルに勤めて、ガルンガンもニュピもなく仕事をしなくてはならないとしたら・・・?何だか深刻な問題にもなりかねませんね。
今回は、ちょっとエッチで、ちょっとマジなK・Bの報告でした〜。
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