■シンカタンの嵐
去る5月29日の総選挙/PEMILU=Pemilihan Umumは、おおかたの予想通りゴルカル、GOLKAR=Golongan Karya(各分野の職能グループ)の圧倒的勝利に終わった。選挙の詳しい話は、他の筆者のレポートに譲るとして、この選挙の運動期間中、TVや新聞は言うに及ばず、日常の雑談の中でも、とりわけ目立ったのがシンカタン=Singkatan、すなわち「略語」の氾濫。いわくDPR、PPP、PDIあるいは、先のPEMILUとかGOLPUT(白票)、ETC。
これらの言葉のなかには、日本で編纂されているインドネシア語の辞書に、すでに登録されているものもあるが、その数はごく限られている。GOLKARやDPR=Dewan Perwakilan Rakyat/議会、は掲載されているが、政党の名前、たとえばPPP=Partai Persatuan Pembangunan/開発統一党は出ていなっかたりする。イスラムを党原則とするこの政党の名が、インドネシア語の辞書に載っていないというのは、強いて言えば、バリ島の地図からブサキ寺院が脱け落ちてしまっているようなものか。ちなみにこのPPP、発音はもちろんぺーぺーぺーでいいのだが、実際の話の中では“ペーティガ”=P tigaと呼ばれていた。
選挙や政党といった堅い世界だけにSingkatanがあるわけではもちろんない。よく耳にするところではカーテーペー、KTP=Kartu Tanda Penduduk/住民票というのがある。一種のアイデンティティ・カードのようなもので、16、7歳になると登録・所持が義務づけられ、不携帯の場合には罰金を課せられることもあるそうだ。
われわれ日本人にとっては、アンデンティティ・カードそのものが珍しいのだが、くわえてインドネシアのお国柄をあらわしているのが、AGAMA/宗教の項目だろう。イスラム教、ヒンドゥー教、キリスト教、仏教といった各個人が信奉する宗教が、KTPには記されている。
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■ドジで間抜けがあたりまえ?
さて、今号から連載のこのインドネシア語講座、いきなりがっかりさせて申し訳ないのだが、筆者はインドネシア語の専門家でもなんでもない。さらに正直に言うと、インドネシア語など正式に勉強したことなんか一度もないのである。いわゆる「習うより慣れろ」式でいままでなんとかやってきた。タイトルに銘打ってある“現地調達版”というのはそういうことなのである。
だからこの講座では、辞書にもテキストにも載っていない言葉や表現を、なるべくたくさんとりあげて実際に使ってみよう、ちょっとしたニュアンスをまじえた言い回し、あるいは禁句など、できるだけ会話に役立ちそうな表現をとりあげていこうと考えている。
ところで筆者のペンネーム《ピンピン坊》であるが、実はこれもSingkatan。最近聞いたSingkatanの中でも特に気に入って、ことあるごとに使っている。もとの言葉はPintar Pintar Bodoh、略してPin-Pin-Bohとなる。ふだんはしっかりしているのに、意外なところで抜けてたり、肝心なときに思わぬポカミスをした相手に使う。「ドジ!」「マヌケ!」といったところか。
というわけで、ぴんぴん坊が講師をつとめるこの講座もなかなか用心しなくてはいけない。むやみやたらと信じてはいけないのだ。
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