●JEGOG -3-
ジェゴグの歴史・文化
和子 スウェントラ 
写真提供:小原孝博  
 極楽通信購読者・ジェゴグファン、そしてその他の皆様こんにちは、お元気ですか。第19回バリ芸術祭もこの6月15日に開催されました。当日、オープニングにて貴賓席の目の前にて2台のジェゴグが堂々と勢揃い、重低音とコミカルな音の響きをうねり出し、副大統領はじめ文部大臣、州知事、観光客そして観衆の心が一同に引き集まりました。他にジェゴグセットを車に載せ、行進しながら演奏をするという例年にない演出を致しました。それというのも同じバリ人で未だにジェゴグ音楽を見たり聞いたりした事のない人も含めた観衆に、隅から隅まで音を聞いて楽器を見ていただき、もっとジェゴグを知ってもらうためでした。

 前回の極楽通信で、ジェゴグ紹介シリーズにあたって数年来の応援者、堀さんの文章の中にはじめてサンカルアグン村の(財)スアール・アグンに訪問して下さった時のことが書かれてありました。ちょうど日本からのレコード会社とジェゴグ音楽録音契約をし、契約の中に雑音を避けるために部外者立ち入り禁止と言われた録音日に、甥が断りきれず招いたお客様が堀さんグループでした。今だから話しますが、あの時は録音許可契約済み、先払い受け取り済みの立場上、あのような行動に出てしまったのです。私(和子)自身の性格ではないのです。それはこの数年のお付き合い(主人も含めて)の中でわかっていただいてきたようですネ! その証拠はスタッフにもあげなかったナシ・ブンコス(葉で包んだ御飯)をあげたことでしょう.....心の中では言いたくもない言葉、思われたくもない態度(うるさそうなコーディネーターと思われた)をしていたようですが、正直者(??)は困りますね、つい素直に演技ができて.....
 でも、思えば忘れられない印象に残っている訪問者でした。堀チャン、エリちゃん、そして今は結婚して益々仕事に光が射してきたキャメラマンの小原チャン、ゴメンナサイ。今では大切な協力者・姉弟です。バリに来たらヌガラの実家に寄って下さい。

 それと、この書面を通じて堀チャン一族をジェゴグ・スアール・アグンそしてスウェントラと和子のファンの筆頭に公認致します。たとえ、法律事務所にてサイン無しでもOK!!

 前回約束したように、ジェゴグの歴史・文化の紹介予定でしたが、堀チャンがVol.19で、求めていたジェゴグ音楽に巡り合った時の特報を紹介したおかげで、私の企画が変更されてしまったことをお許しください。

jegog photo

 ここから約束致しましたジェゴグの歴史・文化を話します。
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 前回も書きましたが、人類の誕生以前に竹が地球に存在していたと信じています。自然体の気温湿度と風の動きの中で左右に揺れ、ぶつかり合いながら自然にジェゴグ演奏を奏でていたことでしょう。そして人類の誕生と共に生活が始まり、生活の中でも竹が必要とされ、現代の生活、儀式に欠かせない貴重な必需品となります。
 生活の中で組合と村人のコミュニケーションを素早く取るために考えられたのが、クルクルという竹筒のベルでした。毎日、時・村の行事・緊急事態を素早く伝えてくれます。ある時は恋人への竹コールの役目を果たし、ある人は自分の意思を竹コールを通じて打ち明けることもできました。その音を文章を通じて意思表現できないのが残念ですが、なんとなく空想できますよね! 本当に自然は素晴らしいロマンです。
 私がその時代に生まれていたら、今の夫(前の夫がいたのかしら)から心臓まで突き刺す程の重低音でモーションをかけたか、かけられたのでしょうと、フッと目に思い浮かべます。(ヨケイナ、ヒトリゴトデシタ...)

 そのように村の中を鳴り響きわたった音から、村人は家族の生活の中に娯楽を求めるようになり、竹の楽器を考え出しました。始めはメロディーのない、ただ心に伝わる響きを感銘し楽しみました。時が経つにつれて、祈りの音が音階として作曲されました。
 一般のアジア諸国、インドネシア・バリ音階は5音階、7音階ですが、ジェゴグは4音階と演奏者の心からの音が加わると言っています。もっと簡単に言いますと、東西南北の4神のパワーを授かり、演奏者を通じて音が響きだすと信じています。(五心音階)
 このような生活の流れから、ジェゴグ楽器・音楽が生まれ、重要な奉仕をしています。
 ジェゴグとは偉大さ、深界という意味です。事実、一番大きい竹筒は長さ約3m、直径20cmはあり、重低音から最高音まで押し合いへし合いの音がうねり響く深い音で観衆の心に染み込み酔わせます。ジェゴグは村々の収穫後の喜びを家族や村人と感謝を込めて祝うため、年行事、各家の祝い事などに演奏します。
 ジェゴグ楽器はガムラン・ジェゴグと学名上登録されています。スアール・アグンの団長であるスウェントラ氏が語っていました。
 「バリ人にとって、握る・掴むということは、生活の源力になる。すなわち、しっか物を握る・掴む、そこには神が宿り、神に掴まることによって良い家庭、生活が過ごせる。ガムラン/打楽器を演奏することは神に掴まり、神を握ることだ。演奏者は打楽器を演奏することによってタクスーに出会うことができると考えています。」
 タクは力、スーは運、またはすばらしさのこと。つまりタクスーとはすばらしい神の力を意味しています。
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 バリ島には新旧合わせて20種類位のガムラン/打楽器があるといわれています。バリではガムランを3つの時代区分に分類します。
  1. 古来16世紀以前から、東ジャワのマジョパイト王国がバリに移住を始める頃。
  2. 中世音楽で、マジョパイトによって16世紀以後、ジャワからもたらされた音楽。
  3. オランダの植民地が本格化し、在来王朝の勢力が衰退してからの音楽。

 上記の3つの時代区分を見ると、ジェゴグは近代音楽です。今でこそ皆様のご支援により盛んに演奏されるようになったジェゴグですが、300年近くオランダの植民地とされ、第二次世界大戦中、インドネシア独立戦争時代にかけてオランダの植民地支配政策により、伝承が途絶え廃れていました。オランダが支配地域の反乱を怖れ、弾圧を加えたためです。オランダの怖れとは、竹筒を竹槍にして農民が攻撃してくることで、それを止めるための政策でした。

 演奏を禁止された農民達は生活から生まれた娯楽を奪い取られ、悲しみと悔しさでますますオランダへ攻撃を加えました。禁止されたジェゴグ楽器の竹筒は没収され、残された足(楽器台)が農家の軒下に崩れ置かれていました。
 禁止されてから何十年の歳月が過ぎました。口には出せない農民達の気持ちは、いつまたジェゴグが村で演奏できるのかということで、この日を思いながら過ごしていました。
 しかし、歴史と文化をオランダ政策だけで消すことはできませんでした。それはバリ島の歴史・宗教そして生活、もちろん文化と芸術が一体になっていて、時代が終わっていないからです。
 ここで、禁止前に演奏していた老人が、自分の息子に遺言のように語って頼んだ願いがありました。
 それは、今一度、ジェゴグを復活させることでした。

 この続きは次回号を読んで下さい。それまで購読者、ジェゴグファンの皆様、お元気でご活躍、お過ごし下さい。

Terimakasih! Sampai jempa lagi!!
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