●Enak・Enak・Ubud / 11
トゥアック(TUAK)

写真1

 トゥアックというバリの地酒をご存じですか?
 普通われわれツーリストが飲むことができるバリ島の地酒は、お米から作られるブラムとココナツの樹液から作られるアラックではないでしょうか。ブラムは発酵させたお酒、アラックは蒸留酒なので、ある程度の日持ちがします。
 しかし、トゥアックはココナツやジャコー(Jako)椰子の樹液がそのままお酒なので日持ちがしません。そのためにあまり見かけることがありません。UBUDのパサールで売られているそうですが、早朝でなくなってしまい、これもツーリストには手に入れることが難しいようです。
 UBUDの北、テガララン郡のスバリ村に夕刻出掛けると、仕事をおえた村人がマンディも済ませ、ワルンで一服をしながら雑談をしている風景に出会います。その村人たちは手に手に、白い液の入った小さなコップを持っています。そうです、この中身がトゥアックなのです。夕涼みの二、三杯のトゥアックがこの村の男たちの楽しみのひとつ。村人たちのこんな日常的なお酒がトゥアックなのです。男たちが数人集まり興にのると、ゲンジェと呼ばれる歌が唄われます。それはケチャとバリの民謡を足して2で割ったようなリズミカルなアドリブの唄で、時には踊りだす者もいるといいます。「私もトゥアックが飲みたいな!」と言うと、どこからからともなく、採りたてのトゥアックが運ばれてきました。それはそれは甘くて美味しいお酒でした。ほかの村でもこんな光景がきっとあると思います。チャレンジしたい方は、まめにバリ人に尋ねてみてください。

 今回はジャコー椰子(写真1)から採るトゥアックを取材しました。ジャコーはバリ語で、日本語名はしゅろです。

 ジャコー椰子は、ココナツの木より幹が一周り大きく(50センチ位)すらりとのびた一番上の部分に葉や花がつきます。真ん中から放射状に分かれた枝のうち、花がつくのは二本。枝の先っぽに、まるでレゲエのラスタ・ヘアーのように花が鈴なりになります。(写真2)。その直径10センチほどの枝を、花の根元でストンと切り落とせば、その切り口からトゥアックの樹液が出てくるのです。花が咲く枝二本のうち、トゥアックのために切り落すのは一本だけ。はじめに幹の一番上についていた花は、だんだん低い位置に枝がつくようになり、最後は根元近くになっておわります。根元近くの梯子に登らなくても採れる位置までくると、もう採るのをやめるそうです。どうも、梯子に登らないで採ることが嫌なようで、これもバリ人気質のひとつなのかと思ってしまいます。

 それでは、樹液・トゥアックを採る様子を説明しましょう。

● まず、花のつく枝が熟す時期を待ちます。(このタイミングは花が咲く寸前のようです)
● そして、熟した枝を木槌で叩いたり、しならせたり、塩をつけマッサージをしたりして枝をほぐし、樹液が流れやすくします。
● 次に、花に近い部分の枝を切り落とします。切り口からはじめは水分がでてきますが、それは捨てます。そのあとに、乳液のようなものがしたたり落ちてきます。それが、トゥアックと呼ばれ、お酒としてて飲まれるものです。
● 切り口の先に竹筒をぶらさげてトゥアックを貯めます(写真3)。一番はじめに採ったトゥアックは甘くておいしい、しかし、非常に強いそうです。


写真2
● 一日に2・3回、竹筒からトゥアックを取出すことができます。
● 切り口が固くなりトゥアックが出なくなると、その切り口を薄く切り取ります。すると再びトゥアックが出はじめます。
● 三ヵ月ほど繰り返すうち枝の切り口が幹に近づき、切り取ることが不可能になるほど短くなります。そうなると、この枝からトゥアックを採るのはおわりです。
● こうして、一年ほど何ケ所かの花を切り落すと、もう花は根元近くになってきます。そして、花が咲かなくなってしまい、このジャゴー椰子のトゥアックを採る寿命がおわったというわけです。

■ジャコー椰子はココナツの木と同じように多目的に使われる重宝な木です。切り倒されたあとも、多くの役目が待っています。そんなお話を次の機会に報告しますのでのお楽しみに。


 写真2・3のアングルは下から撮っていて、わかりにくいかと思いますが、これは、高所恐怖症の筆者が写真1のジャコー椰子に、竹一本に細い棒のステップがついた梯子に決死の覚悟で昇って撮ったものです。梯子から上は葉の枝に足を掛け昇るのですが、枝の部分は鋭角になっていて足が挟まって非常に痛い。下では村人が「ティダ・アパ・アパ」とわけのわからない応援をしてくれている。途中でゾウリを脱いだり、写真を撮るため身体を乗り出したりと必死でした。というわけで、写真のわかりにくいのをお許しくださいという言い訳でした。



写真3
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