ちょうどマス村とバトゥアン村の間、サカ村の三叉路に大きな石の彫刻があるのを、UBUDを一度は訪れたことのある人は覚えていることでしょう。座っている赤ちゃんの大きな石像。今では、車の排気ガスとコケで真っ黒になってしまいましたが、完成当時はきれいな色白の赤ちゃんでした。いったいこの赤ちゃんにどういう意味があるのだろうか?と疑問に思った人も多いと思います。
UBUDは絵画や芸能、MASは木の彫刻、どちらも芸術の村として名高い、その芸術の村の入り口に、このモニュメントはどうもと頭をかしげてしまう。バトゥブラン村のバロン石像やバトゥアン村のビーマ石像などは、初めてバリを訪れた人にもバリらしさを感じられ理解できる彫刻であるが、この赤ちゃんの石像は、われわれツーリストにはまったく不可解そのものである。UBUDのバリ人に「いったいあれは何なのか?」と聞いても、いっこうに答えらしい答えが返ってこない。通称、ビッグ・ベイビーまたはノー・プロブレム人形と呼ぶと答えるだけで、それ以上知らない。ミステリアスな逸話がある。バリの暦で15日に一度巡ってくる、悪霊が徘徊するといわれるカジャン・クリオンの夜中にビッグ・ベイビーは涙を流す。ビッグ・ベイビーは“みずこ”の供養をしているという。いつのまにかここがみずこ供養の場になってしまった。だからノー・プロブレム人形だという。なにがどうしてノー・プロブレムがわからない。おそらく、事故の多い大きな三叉路なので「何事もなく通行できますように」との願いをこめて“ノー・プロブレム”という名称になったのだろう。
マス村は木彫の村として有名で、黒檀や百壇の木をみごとに芸術作品に仕上げていく芸術家がたくさん住んでいる。村人は、バリにブラフマ(バリの最高位のカースト)が最初に住み付いた土地がここマス村だといい、バリ・ヒンドゥーの発祥の地だともいう。確かにここは、今でも、多くのブラフマ・カーストの人が住んでいる。フダンダ(最高位のお坊さん)はもちろんブラフマ・カーストの人がなる。そして、マス村では、ブラフマ以外のカーストの人がなるといわれているプマンク(お坊さん)でさえブラフマ・カーストの人がなっていると聞く。
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極通スタッフは、このビッグ・ベイビーの製作者であり、マス村の彫刻家であるイダ・バグース・プトラ氏に、直接ビッグ・ベイビーの由来をインタビューすることにした。
I・B・プトラ氏が制作した彫刻は1mほどの小さなものであるが、これが拡大されSAKAHに置かれたというわけだ。名前は「BRAHMA LELARE(ブラフマの赤ちゃん)」でブラフマのシンボルだと言う答えが返ってきた。石彫はマス村のブラフマの人々によって寄贈されたそうだ。赤ちゃんは家の王様、王様の中の王様である。そして、赤ん坊は火をあらわし、小さな火はやがて、太陽のように偉大なものになるという。
今まで半分笑いモノにしていたビッグ・ベイビーも、有名な彫刻師によってつくられたブラフマのシンボルと言われたら、もう笑えなくなってしまった。しかし、通称“ノー・プロブレム人形”と呼ばれるわりには、夜、手前下方からのライトに照らされて、闇夜に浮かびあがる不気味な顔を見て「あやうくハンドルを切り損ねるところだった」というツーリスト・ドライバーがたくさんいるのには笑ってしまいます。
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